独占禁止法

・独禁法とは

不当な取引の制限や市場の独占が行われると,公正な経済競争が損なわれ,一般消費者の利益を害し,経済発展を阻害されます。これを防止するため,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法,独禁法)が定められ,特に悪質な取引制限には刑罰を持って対応しています。

 

・私的独占

「私的独占」とは,事業者が,単独に又は他の事業者と結合し若しくは通謀しその他いかなる方法をもつてするかを問わず,他の事業者の事業活動を排除し又は支配することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいいます(独禁法2条5項)。

排除とは,他の事業者の事業活動を継続困難にしたり,新規参入を排除したりすることをいいます。取引の拒絶や差別的な価格設定などが当たります。

支配とは,他の事業者の事業活動に関する意思決定を拘束し,自己の意思に従わせることをいいます。このような排除や支配により,競争自体を減少させて,特定の事業者又は事業者団体がその意思で,ある程度自由に価格,品質,数量,その他の条件を左右することができる地位を獲得・強化・維持することが私的独占となります。

①こうした私的独占(独禁法3条)をした者,さらに
②一定の取引分野における競争を実質的に制限(独禁法8条1号)した者,
は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処されます(独禁法89条1項)。未遂も処罰されます(同条2項)。

 

・不当な取引制限

「不当な取引制限」とは,事業者が,契約,協定その他何らの名義をもつてするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいいます(独禁法2条6項)。

一定以上の価格にすることを取り決める価格カルテル,ある発注はある事業者に受注させる調整をする入札談合などがこれに当たります。

①こうした不当な取引制限(独禁法3条)をした者,さらに
②一定の取引分野における競争を実質的に制限(独禁法8条1号)した者,
は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処されます(独禁法89条1項)。未遂も処罰されます(同条2項)。

 

・共同しての相互拘束

「不当な取引制限」をしたとして刑罰を科すためには,事業者同士が「共同して…相互にその事業活動を拘束し,又は遂行」したといえる必要があります。

一方的に相手や自分の事業活動を拘束したり,偶然事業者同士が同じ活動をしても「共同して…相互に…拘束」とはいえず,事業者間に何らかの意思の連絡が必要とされます。

審判決例では「複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引き上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があること」を意味するとしています(東芝ケミカル事件)。もっとも,直接事業者同士が会って約束することまでは必要なく,他の事業者の価格引き上げを認識して暗黙の裡に認容することで足りるとされています。

時効や共犯などの関係で,いつこの「拘束」や「遂行」が行われたのかが問題となります。本罪の時効は5年ですので,「拘束」や「遂行」が5年以上前に行われたとなると,起訴されません。

また,途中から談合に加わった者も,「拘束」や「遂行」が終わった後で加わったのであれば共犯者とならないことになります。長期にわたる談合の場合,基本ルールについての合意があった後に,個別の発注において個別調整が行われます。多くの裁判例では,基本ルールの合意を「相互に…拘束」,個別の発注における調整を「遂行」として,不当な取引制限の罪の包括一罪として処罰します。

基本ルールの合意が5年以上前であっても,個別の受注調整が5年以内に行われたのであれば,不当な取引制限をした罪に問われえます。また,基本ルールの合意には参加していなくても,後の個別の受注調整に携わった者も,不当な取引制限をした罪に問われえます。

 

・競争の実質的制限

競争の実質的制限とは,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者団体が,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他拡販の条件を左右することによって,市場を支配することができる形態が表れているか,又は少なくとも現れようとする程度に至っている状態などとされています(東宝・スバル事件)。

価格カルテルや入札談合などは,ハードコア・カルテルといわれ,競争制限を目的としたものであり市場促進効果や正当化事由を有しない点で,直ちに競争の実質的制限に当たるとされています。一方で,情報交換や共同研究開発などは競争上望ましいものもあり,直ちに競争の実質的制限とはされません。

 

・不公正な取引方法(独禁法2条9項)と排除措置命令(独禁法20条1項)

以下の行為は,不公正な取引方法に当たります。

  1. 正当な理由がないのに,競争者と共同して,自己あるいは他の事業者をして,ある事業者に対し,供給を拒絶し又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
  2. 不当に,地域又は相手方により差別的な対価をもつて,商品又は役務を継続して供給することであつて,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
  3. 正当な理由がないのに,商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
  4. 自己の供給する商品を購入する相手方に,正当な理由がないのに,販売価格の自由な決定を拘束するなどの拘束の条件を付けて,当該商品を供給すること。
  5. 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,継続して取引する相手方への取引に係る商品や役務以外の商品又は役務を購入させることや自己のために金銭役務その他の経済上の利益を提供させること,取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒むなど引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施すること。

事業者は,このような不公正な取引方法を用いてはなりません(独禁法19条)。

この規定に違反する行為があるときは,公正取引委員会は,事業者に対し,当該行為の差止め,契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができます(独禁法20条1項)。これを排除措置命令といいます。

排除措置命令が確定した後においてこれに従わないものは2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する(独禁法90条3号)

その他排除措置命令に違反したものは,50万円以下の過料に処されます(独禁法97条)。

 

・両罰規定

法人の役員や従業員が独禁法違反行為をするのは法人の指示の下法人の利益のためです。法人の役員や従業員が罪に問われても,法人を放置していては違反行為を是正できません。そこで,法人も処罰することになっています。

法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業務又は財産に関して,違反行為をしたときは,行為者を罰するほか,その法人又は人に対しても刑を科されます。

私的独占又は不当な取引制限,一定の取引分野における競争の実質的制限では,5億円以下の罰金刑を科されます(独禁法95条1項1号)。排除措置命令に従わない場合は3億円以下の罰金に処されます(独禁法95条1項2号)。

 

・専属告発

以上の私的独占などの罪は誰でも告発できるわけではありません。公正取引委員会の告発を待つことになります(独禁法96条1項)。

 

・特許又は実施権の取り消し及び政府との契約禁止の宣言

前記の独禁法上の各犯罪については,裁判所は,情状により刑の言渡しと同時に,次に掲げる宣告をすることができます(独禁法100条1項)。

  1. 違反行為に供せられた特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権は取り消されるべき旨
  2. 判決確定後6月以上3年以下の期間,政府との間に契約をすることができない旨

判決の謄本の送付があつたときは,特許庁長官は,その特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権を取り消さなければなりません(同条3項)。

 

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