放火・失火

・放火・失火の罪の概要

放火失火は単に物や建物を壊すだけでなく,火が燃え広がり,不特定多数の人の生命や財産に危険を及ぼすため,重い刑罰が定められています。

 

・放火とは

放火とは,物を焼損させることをいいます。

この「焼損」させるとは,物が独立して燃焼し続ける状態にさせたことをいいます。例えば,マンションの室内で新聞紙に火をつけて部屋の壁を燃やしたとします。新聞紙が燃えただけではマンションが燃焼し続ける状態には至っていないので「焼損」させたとはいえません。マンションの部屋の壁が燃え始めて初めてマンションという物が独立して燃焼し続ける状態に至ったといえ,「放火」したといえます。もっとも,新聞紙に火をつけた段階で,マンションが燃える危険を生じさせる行動をしたといえるため,放火の未遂罪(刑法112条)に問われます。

 

・建造物とは

建造物とは,家屋その他これに類似する建築物をいい,屋根があり,壁または柱で支持されて土地に定着し,少なくともその内部に人が出入りすることができるものをいいます。

本殿,拝殿,社務所など別々の建物ですがそれらが回廊等によってつながっており,夜間でも神職等が社務所で宿直していた神宮社殿の一部に火をつけた事件では,全ての建物に対する放火罪が成立しています。

10階建てのマンションの1階の外科医院に火をつけた事件では,優れた防火構造を備え,他区画へは容易に延焼しづらい構造となっている1階の外科医院は,2階以上とは構造上・効用上の独立した建造物であるとして,1階の外科医院に対してのみ放火したものとされました。

建物の構造や用途,実際の使われ方,人の出入りの程度などから,一つの建物といえるかが判断されます。

 

・「現に人が住居に使用し又は現に人がいる」とは

自分一人しか住んでいない場合は「現に人が住居に使用し又は現に人がいる」とは扱われず,非現住建造物とされます。この場合,公共の危険を生じなかった場合は罰せられません。

 

・「公共の危険」

自己所有の非現住建造物等放火(刑法109条2項)や建造物等以外放火罪(刑法110条)は,単に車や自分の所要する空き家などに放火するだけでは成立しません。これらの罪は「公共の危険」を生じさせた場合に成立します。「公共の危険」とは他人所有の建造物に対する延焼など不特定又は多数の人の生命,身体,財産に対する危険をいいます。周囲に何もない自己所有の空き家に火をつけたり,砂浜でバイクを燃やしたりしても,「公共の危険」があったとはいえません。

ただし,「公共の危険」がなくとも,火をつけて他人の持ち物を壊した場合は器物損壊罪(刑法261条)が成立し得ます。

 

・「失火」について

失火とは,過失により出火させることをいいます。

失火により,建造物等を焼損した者は失火の罪に問われます(刑法116条)。自己所有の非現住建造物や建造物以外の物を焼損した場合は,公共の危険を生じさせたのでなければ罰せられません(刑法116条2項)。

業務上必要な注意を怠ったことによる場合は,業務上失火として重い刑事責任を問われます(刑法117条の2)。

この「業務」とは,判例により「職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位」とされています。公衆浴場の経営者やガス販売業者,ホテルの支配人などです。

このような職務についてなくとも,重大な過失によるときは,重過失失火(刑法117条の2)として業務上失火と同じく重く処罰されます。例えば,ガソリンの缶の近くでライターに火をつけるなど,あまりにも不用心な場合です。

 

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