児童買春、児童ポルノ、児童福祉法、淫行条例違反
・総論
16歳(児童が13歳以上の場合は、行為者が、児童が生まれた日よりも5年以上前の日に生まれた場合に限ります。)未満の児童に対しては,同意があっても不同意性交等(旧強制性交等)や不同意わいせつ(旧強制わいせつ)が成立します。しかし,児童が16歳以上であっても,成人と比べ特に性的搾取や虐待に遭いやすく,また児童の心身に与える影響は極めて大きいことになります。そこで,児童の保護のため,特別な定めがあります。
・児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
(以下,この項では「法」と書きます。)
法2条1項で,「児童」とは18歳に満たない者と定められています。
保護の対象は実在する児童であって,漫画やゲーム等に登場する18歳未満の者は法のいう「児童」に当たりません。法1条は「児童の権利を擁護することを目的」としており,児童を性欲の対象とする風潮を防止するなどということは読み取れず,保護の対象が実在する児童であることは明らかです。
児童買春とは,児童等に対し,対償を供与し,又はその供与の約束をして,当該児童に対し,性交等(※1)をすることをいいます。(法2条2項柱書)児童本人に対してだけではなく,児童本人以外の大人にお金を渡しても児童買春に当たり得ます(法2条2項2号・3号)。
児童買春をした者は5年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます(法4条)。児童買春のあっせんをした者,あっせんをする目的で人に児童買春をするように勧誘をした者は,5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処され,またはこれらの罪を併科されます(法5条1項,6条1項)。これらを業としたものは,7年以下の懲役及び1000万円以下の罰金に処されます(法5条2項,6条2項)。
次に,児童ポルノの所持罪等について説明します。
児童ポルノは,写真やパソコン,スマートフォンなどのデータで児童を相手,または児童による性交や性交類似行為を写したもの,他人が児童の性器等を触る行為または児童が他人の性器等を触る行為における児童の姿態を写したもの,児童に布地の小さい水着を着せて写したもの,用便中の児童を盗撮したものなどが当たります。児童ポルノの定義については,法2条3項に規定されています。なお,児童を写真撮影したものではないCGなどでも,精巧に作られ,被写体を忠実に再現したようなものは,被写体となる人物が児童と認識でき,被写体と同一と認められるようなものであれば「児童ポルノ」に該当する可能性があります。
自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノを所持した者は1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます(法7条1項)。児童ポルノ所持罪が成立するためには「自己の性的好奇心を満たす目的」が必要であり,これがない場合には,同罪は成立しません。例えば,親が単に自分の子供を撮影した映像の中に,たまたま子供が裸で動き回るところが写っていたとしても,当該映像は「児童ポルノ」に当たり得ますが,この映像を所持していたとしても,「自己の性的好奇心を満たす目的」がなく児童ポルノ所持罪は成立しません。
児童ポルノを提供した者は,3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処されます(法7条2項)。これは「自己の性的好奇心を満たす目的」がなくとも成立します。 児童ポルノを提供する目的で児童ポルノを製造や所持した場合,その他に児童ポルノを製造した者も同様に罰されます(法7条3項から5項)。
児童ポルノを不特定もしくは多数の者に提供し,または公然と陳列した者は,5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処され,またはこれを併科されます(法7条6項)。不特定多数への提供,公然陳列目的で製造や輸出入した者も同様に罰されます(法7条7項,8項)。
児童買春や児童ポルノ製造目的で児童を売買した者は1年以上10年以下の懲役に(法8条1項),さらに外国の児童をその居住国外に移送した日本国民は2年以上20年以下の懲役に処されます(法8条2項)。
(※1)性交若しくは性交類似行為をし,又は自己の性的好奇心を満たす目的で,児童の性器等(性器,肛門又は乳首をいう)を触り,若しくは児童に自己の性器等を触らせること
・児童福祉法
児童に淫行をさせる行為をした者は10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処されるか,この両方を科されます(児童福祉法34条1項6号・60条1項)。
児童は満18歳に満たない者をいいます(同法4条1項)。
「淫行」については「児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当であり,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,同号にいう「淫行」に含まれる。」とされています。
「淫行させる行為」とは,「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をも包含する」とされています(最高裁第二小法廷決定昭和40年4月30日)。
「そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断する」とされています(平成28年6月21日最高裁第一小法廷決定)。例えば,学校の教師が,自分が担任をしている児童と性交をする場合などが「淫行」に当たります。
・淫行条例
お金を出したりせず,写真も撮ったりせず,初めて会ったような16歳以上の青少年と性交等をした場合は法律上は処罰されないことになります。
そのような場合でも青少年の健全な育成を害すると考えて,各都道府県は「青少年保護育成条例」,「青少年健全育成条例」といった都道府県の条例で青少年に対する性交を処罰しています。長野県の平成28年11月施行の「子供を性被害から守るための条例」をもって,すべての都道府県で青少年に対する淫行が処罰されることになりました。
静岡県の場合は,「静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例」があります。同条例14条の2第1項は「何人も,青少年に対し,淫行又はわいせつな行為をしてはならない。」とさだめています。これに反すれば2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(同条例21条1項)。
最高裁判所が「『淫行』とは,広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく,青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。」(最高裁昭和60年10月23日大法廷判決)との判断を示し,その後の条例の適用も最高裁のこの解釈に従っています。
もっとも,これではどのような場合がこの「みだらな」や「淫行」に当たるか,当たらないかは明らかではありません。結婚を前提とする場合は当たらないなどとされていますが,結婚を前提とせずとも真剣交際中はどうなるのかなどの問題があります。
なお,他の法令は特に違反者が成人か青少年かを区別していませんが,淫行条例では,条例違反者自身が青少年のときは免責される場合もあります(東京都青少年の健全な育成に関する条例30条など)。
・児童の年齢について
児童に対する性犯罪も故意犯ですので,各法令に定められた年齢未満の者であることを認識し,または認識し得たことが必要です。もしかしたら18歳未満かもと思っていても故意があると言えます。軽々しく18歳以上だと思っただけでは故意がないとは認められません。
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律では9条で,児童を使用する者は,過失がある場合,児童の年齢を知らないことを理由に児童買春のあっせんや売春の勧誘,児童ポルノの提供や製造,人身売買による処罰を免れることはできないと定められています。