医療事件

・犯罪の概要

医療事故や医療過誤については,特別な法律はなく,刑法により規制されることになります。

具体的には,業務上過失致死傷罪(刑法211条)に該当することになります。

刑法211条は,「業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。」と規定しています。

また,医業については,医師法により規制がなされています。

具体的には,医師法第17条は,「医師でなければ,医業をなしてはならない。」と規定しています。

そして,この違反への罰則として,医師法第31条1項1号は,「3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。」と規定しています。

また,医師法第32条は,「医業の停止を命ぜられた者で,当該停止を命ぜられた期間中に,医業を行ったものは,1年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。」と規定し,医業の停止期間中の医業を規制しています。

 

・犯罪不成立の主張

仮に患者の方が死亡してしまっても,医師に人を死に至らしめる故意又は過失がなければ,犯罪は成立しません。

また,医師の行為と死傷結果との間に因果関係がなければ犯罪は成立しません。

そこで,弁護士は,客観的な証拠に基づいてこれらの点が認められないことを主張・立証し,不起訴処分・無罪判決の獲得を目指します。

具体的には,警察や検察などの捜査機関が提示する証拠では,過失や故意・因果関係があることを十分立証できないことを指摘します。

また,カルテや関係者の証言・被害者の負傷又は疾病の状況などから医師が適切な措置をしていることや死傷の結果は不可避であったなど過失がなかったことを主張・立証します。

 

・医師法21条の問題

医師法21条では、「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」と定め、これをしなかった場合、50万円以下の罰金に処されます(医師法33条の2第1号)。

これについては、最高裁も、捜査の端緒を容易にするほか、被害を防止し社会防衛を図ることを可能にする行政手続き上の義務としており、異常死体は人の死亡を伴う重い犯罪に関わる可能性があるのであるから、その公益上の必要性も高いとしています。届出の内容も、自らの過失の有無についてまで届け出るものではありません。

 

・被害弁償や示談

医療事故・医療過誤事件で,業務上過失致死罪などの成立に争いがない場合,被害者やその遺族に対する謝罪及び示談交渉を速やかに行う必要があります。医療事故・医療過誤事件による被害結果が軽微で医師の過失が重大なものでなければ,示談の成立により不起訴処分を獲得できる可能性があります。

不起訴処分であれば,前科がつかないので,前科がつくことによる悪影響を防ぐことができます。前科がつくと,例えば,医師としての活動に影響が出たり,病院の信頼が損なわれたりする恐れがあります。

不起訴処分であれば前科がつかないため,事件後の医師活動を再開しやすくなります。

 

・情状弁護

医療事故・医療過誤事件の刑事裁判で有罪判決を免れない場合でも,必ず重い懲役刑や罰金刑を科せられるわけではありません。

被害者やその遺族との示談成立・医師の過失の程度などから被告人に有利な事情を主張し情状酌量の余地があることを裁判官に示します。

これにより減刑や執行猶予付き判決の獲得を目指します。

 

・早期の釈放・保釈

医療事故・医療過誤事件で逮捕・勾留されてしまった場合は,警察や検察,あるいは裁判所に対して早期の釈放・保釈を求めます。

具体的には,容疑者である医師には逃亡や証拠隠滅の恐れがないことを客観的な証拠から明らかにし,身柄拘束の必要性がないことを主張します。

 

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