人身事故・死亡事故

・危険運転致死傷の概要

危険運転致死傷罪が成立するのは,①一定の類型に当てはまる場合②人が死亡・負傷した場合です。法定刑は,人をけがさせた場合には15年以下の懲役,人を死亡させた場合には1年以上の懲役となっています(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)2条)。

かつては,危険な運転行為に関しても,殺人や傷害罪に当たらない限りには,すべて業務上過失致致傷罪に留まり,最高でも当時は懲役5年と,非常に軽い刑となっていました。危険運転致死傷罪は,業務上過失致死傷罪の適用が不当であると考えられたケースへの適用を目指して制定されました。

 

・危険運転致死傷罪が成立する類型について (※1)

①酩酊運転(自動車運転処罰法2条1号)

「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」で自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。

ここでの薬物は,違法薬物(覚せい剤や大麻等)に限られず,睡眠薬等の医薬品も含まれます。

正常な運転が困難な状態とは,危険を的確に把握し,対処することができない状態のことを指すとされています。

 

②制御困難運転(自動車運転処罰法2条2号)

進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。

速度違反のように,何kmオーバーということが数値で決まっているわけではなく,道路状況や事故状況に応じて判断されます。そのため,例え時速50km程度で走行していたとしても,その道が非常に狭かったり,通行人が多数いたなどと言った事情によっては,制御困難な高速度であるという判断がなされる可能性があります。

 

③未熟運転(自動車運転処罰法2条3号)

進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。

「進行を制御する技能を有しない」とは,基本的な自動車操作の技能を有しないことをいいます。技能の有無が問題とされるので,免許の有無を基準として判断せず,実際に技能がどの程度あったのかという観点から判断されます。

 

④妨害運転致死傷(自動車運転処罰法2条4号)

人または車の通行を妨害する目的で,通行中の人または車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪です。幅寄せ行為やあおり行為がこれに該当します。

本罪の成立には,妨害の目的が必要ですが,妨害の目的とは,相手に急ブレーキを踏ませようとするといった自由かつ安全な通行を妨げる目的を言います。単に交通事情によりやむを得ず割り込んでしまった場合には,このような目的がないと判断されます。

 

⑤信号無視運転致死傷(自動車運転処罰法2条5号)

赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪です。

「殊更に無視」とは,赤信号であることを認識している場合のみでなく,およそ赤色信号標識に従う意思のない場合をいいます。例えば,赤色信号であることを見過ごした場合は「殊更に無視」にはあたらないこととなります。

 

⑥通行禁止道路運転(自動車運転処罰法2条6号)

平成26年に新しく追加された類型です。通行禁止道路(歩行者天国内や,登校時間中の一部学校の周辺など)を進行し,重大な交通の危険を生じさせる場合です。

 

          

(※1) いずれの類型であっても,自分が以下の類型に該当するような行為を行っている(例えば,正常な運転が困難な状況にある)という認識が必要。

 

・準危険運転致死傷罪について

アルコールや薬物,あるいは一定の病気による影響により,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で,自動車を運転し,よって,そのアルコールまたは薬物,あるいはその病気の影響により,正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させた場合に成立します。人を負傷させた場合には,12年以下の懲役が,人を死亡させた場合には,15年以下の懲役が科されます(自動車運転処罰法3条1項)。

本罪が成立するためには,危険運転致死傷罪の場合とは異なり,現実に正常な運転が困難となることまでは必要がなく,「正常な運転に支障が生じるおそれ」で足りるとなっています。それに伴い,本人の認識としても,このおそれがあればよいということになります。

 

・アルコール等影響発覚免脱罪について

アルコールまたは薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こし,人を死傷させた場合に,運転当時のアルコールまたは薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる目的で,さらにアルコールを摂取,あるいは,その場から離れアルコールまたは薬物の濃度を減少させること等をした場合に成立します。

飲酒運転で事故を起こした後,現場から逃走し,数時間おいてから出頭すると,体内からアルコールが抜け,飲酒運転の立証が困難になります。このような逃げ得を防ぐため,この罪が作られました。

なお,この犯罪類型を新設したことにより,その場から逃走した場合には,アルコール等影響発覚免脱罪(最高で懲役12年)とひき逃げ(道路交通法117条2項,最高で懲役10年)が成立し,併合罪(※2) により最高刑は懲役18年になります。

 

          

(※2) 確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪といい,併合罪のうちの2個以上の罪について有期の懲役または禁錮に処するときは,その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする。ただし,それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

 

・過失運転致死傷

自動車の運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,7年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(自動車運転処罰法5条)。

前方不注視やスピード違反などの過失により,自動車事故で人を負傷させたり,死亡させたりする場合に成立します。

 

・無免許による加重

無免許の場合は,各罪の法定刑がそれぞれ引き上げられます(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律6条,ただし,未熟運転の罪は除く)。

危険運転致死罪の場合,無免許でも法定刑は変わりません。 

危険運転致傷の場合,免許有が15年以下の懲役で無免許の場合6月以上の懲役です。

準危険運転致死の場合,免許有が15年以下の懲役で無免許の場合は6月以上の懲役です。準危険運転致傷の場合,免許有が12年以下の懲役で無免許の場合は15年以下の懲役です。

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の場合,免許有が12年以下の懲役で無免許の場合は15年以下の懲役です。

過失運転致死傷の場合,免許有が7年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金で無免許の場合は10年以下の懲役です。

 

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