静岡県牧之原市で警察に対する虚偽通報で逮捕
警察などの捜査機関に対して、虚偽の犯罪事実などを告げることによって生じうる刑事責任について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事件例】
静岡県牧之原市在住の会社員Aさんは、日頃のストレスを発散するため、何か大掛かりな悪戯を仕掛けようと思い、警察に110番通報をして「たった今人を殺した。自首したい」と虚偽通報を行いました。
Aさんの虚偽通報に対して、静岡県警牧之原警察署は、10名以上の警察官と5台のパトカーを配備して通報に基づく現場に駆け付けたところ、予想以上に大騒ぎになったことに不安を覚えたAさんは現場から逃げようとしましたが、捜査を開始した警察官によって職務質問され、先程の殺人事件の通報が自分の虚偽通報であることを認め、軽犯罪法違反の疑いで現行犯逮捕されました。
(※フィクションです)
上記刑事事件例は、令和元年6月27日、滋賀県大津市で「人を刺した」と110番の虚偽通報をしたとして、会社員男性を軽犯罪法違反の疑い現行犯逮捕した事案をモデルにしています。
逮捕された事実は、大津市の路上から「人が死にそうになっている。俺がやった」と自分が犯罪を犯したと称する虚偽通報を行った疑いで、警察に対し、被疑者は「警察をからかってやろうと思った」と動機を供述しているようです。
被疑者は犯行時、酒に酔った状態だったといい、被疑者の虚偽通報後、警察官20人が一帯を捜索、パトカーなど約10台が駆け付ける騒ぎとなりました。
上記刑事事件では、現行犯逮捕の根拠法令として軽犯罪法が適用されています。
軽犯罪法は、日常生活上で起こり得る不適切行為について列挙し、その違反者に対して拘留または科料という軽い刑罰を科す法律ですが、捜査機関が軽犯罪法を安易に適用して逮捕等による国民の人権侵害行為を安易に行うことを戒めるべく、軽犯罪法の本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならないと、あえて条文を設けています(第4条)。
軽犯罪法第1条第16号では、「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」と規定し、国家機構を運営する公務員を不当に混乱させたり、その業務を妨害することを禁止しています。
また、警察に対する虚偽通報という行為に対しては、刑法第233条の偽計業務妨害罪が成立する可能性があり、具体的には、偽計を用いて、人の業務を妨害した場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
公務員の業務に対する不法な妨害行為について、一般的には公務執行妨害罪が適用されることになりますが、判例によれば、「公務」の中でも「強制力を行使する権力的公務」でない公務については「業務」性を認め、威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪などの成立を認める判例があります。
よって、警察に対する虚偽通報に対して軽犯罪法違反が適用された上記刑事事件について、被疑者が偽計を用いて警察の非権力的公務を妨害する意図によって虚偽通報を行ったことが認定された場合には、軽犯罪法違反と同時に偽計業務妨害罪が成立する可能性があり、刑事手続上、より法定刑の重い偽計業務妨害罪で刑事責任を問われることが考えられます。
上記の警察に対する虚偽通報に似た刑事事件として、覚せい剤に見せかけた白い粉が入った袋を交番前に落とし逃走し、警察官に追跡させたとして偽計業務妨害罪で起訴された被告人に対して、名古屋高裁金沢支部は罰金40万円の一審判決を維持しています。
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