器物損壊事件の裁判例等を紹介
器物損壊事件の裁判例等について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
事案
南伊豆町が設置した看板を塗料で汚損したとして、下田署は、器物損壊の疑いで自称デザイナーの男を逮捕した。
逮捕容疑は、町内に設置された看板1枚に塗料をスプレーで吹き付けて汚損した疑い。
町によると、この看板は高さ約5メートルの三角柱で町民憲章が記されていて、このうち一つの面が青色で塗りつぶされていた。
(静岡新聞「南伊豆町民憲章の看板を汚損の疑い 自称デザイナー逮捕」(2023.5.26)から引用・参照。 )
~器物損壊罪について~
(器物損壊等)
第261条 前条に規定するもののほか(注:公用文書、私用文書、建造物等)、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
(親告罪)
第264条 (……)第261条(……)の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
器物損壊罪(刑法261条)とは、他人の物を損壊させるなど財物の効用を害する行為によって他人の所有権を侵害する行為を罪として罰する旨の規定です。
また、261条は他人の所有物の侵害態様として「傷害」を規定していますが、これは主として動物を客体とする行為を想定していると解されています。
なお、仮に対象物が「差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は配偶者居住権が設定されたもの」であった場合は、自己の所有物であったとしても器物損壊罪等として処罰されうる点に注意を要します(同法262条)。
毀棄罪が成立するか、その中でも「損壊」に当たるかについては重要な最高裁判例が存在します。
最決平成18年1月17日は、公園内に設置された公衆トイレの外壁に落書きした行為に建造物損壊罪(刑法260条前段)が成立するかが争いになったケースにおいて、「損壊」自体は物の効用を害する一切の行為という通説的見解を維持しつつ、美観や外観を考慮しつつその利用を困難にさせたことをもって同罪の成立を認めています。
本事案は、建造物ではなく看板という「他人の物」が対象となっており、一つの面が一色で塗りつぶされていたというのですから、看板の有する効用が害された(すなわち「損壊」に当たる)ことは比較的明らかな事案といえるでしょう。
~器物損壊事件における弁護活動等~
本事案が特殊なのは被疑者が既に同様の行為によって有罪判決を受けていることです。
被疑者は前年にも、南伊豆町が設置したモニュメントなどをスプレー式塗料で汚したとして器物損壊の罪に問われ、静岡地裁下田支部は「懲役1年、執行猶予3年」を言い渡しています。
そうすると、本事案で起訴されてしまうと実刑は免れないのでしょうか。
刑法25条2項によると、「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者」は「1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け」「情状に特に酌量すべきものがあるとき」は「裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予」される可能性がある旨を規定しています。
すなわち、本事案でも再度の執行猶予が付く可能性があるため、弁護士としては仮に起訴に至ったとしても執行猶予が相当である事案として弁護活動を行っていくことが考えられるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、器物損壊事件を含む刑事事件のみを専門にしている法律事務所です。
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