【年金不正受給】窃盗・詐欺事件の裁判例等を紹介
年金の不正受給に関する窃盗・詐欺事件の裁判例等について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
事案
死亡した親子の年金458万円を不正に引き出したとして、窃盗と詐欺の罪に問われた被告人に対し、静岡地裁浜松支部は「懲役3年6月」の判決を言い渡した。
判決によると親子が亡くなった後、共犯者と共謀し、親子の口座から現金を繰り返し引き出した。
また、掛川市と愛知県豊橋市の自動車販売会社3社から車3台(販売価格約325万円)をだまし取った。
被告人は同親子の死体遺棄容疑で逮捕されたが、嫌疑不十分で死体遺棄罪では起訴されていない。
(中日新聞「年金不正引き出し、懲役3年6月判決 地裁浜松支部」(2021/1/21)を引用・参照。)
~年金の不正引き出し等の罪責について~
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(詐欺)
第246条 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
本事案では、被告人と共犯者が共謀し、死亡した親子の口座から現金を繰り返し引き出した行為に関する罪責が問われています。
一見すると詐欺のような事案に思えますが、上記行為は窃盗罪に該当することになります。
窃盗罪とは、他人の意思に反して他人の財物の占有を移転させる犯罪です。
本事案では、何ら権限もないのに無断で死亡した親子の口座から現金を引き出しており、これはその財物の占有を占有者の意思に反して自己(又は第三者)に移転させていることから「窃取」行為に当たることになります。
ここで注意すべきなのはここで窃盗の客体となる現金という「財物」を占有しているのは、銀行(正確には銀行内の現金の占有権原を有する支店長等)であるということです。
したがって、本事案では銀行を被害者として上記行為に窃盗罪が成立することになります。
なお、本事案で詐欺に問われているのは、上記行為とは別に自動車販売会社から自動車を騙し取った行為であり、これが詐欺罪に該当することは比較的明白でしょう。
~年金不正受給事件における弁護活動等~
本事案では、被告人に対して「懲役3年6月」という実刑判決が下されています。
このような執行猶予なしの実刑判決が下されるケースと執行猶予判決となるケースには、どのような違いがあるのでしょうか。
以下では、年金の不正受給に関する他のケースを紹介します。
死亡した母親の死亡届を提出せず、年金約130万円を不正に受給したとして、死体遺棄および詐欺の罪に問われた被告人に対し、静岡地裁沼津支部は「懲役2年4月」「執行猶予3年」の判決を言い渡しています(静岡新聞「母の遺体を自宅に放置 年金不正受給に有罪」(2022/11/9)を引用・参照)。
本事案と執行猶予の付いた上記のケースでは、年金の不正受給に関し被害額が大きく異なるという点がまず挙げられるでしょう。
また、本事案では、別途詐欺行為がなされており、死体遺棄では不起訴になっているとはいえ、別の主体に財産上の法益侵害を生じさせている点もまた量刑を異にした相違点といえるでしょう。
このように一口に年金にまつわる不正受給事件といっても、事案により量刑は様々であり、専門知識と経験を有する弁護士によるアドバイスが必要不可欠といえます。
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